モグラ/もり
 
誰かが殺されたらしい。

せいぜいぼんやりとした現実がおれの背後に忍び寄ってくる。
あまり汗をかかなくなったこの頃、いつも息が熟柿臭い。
それでも、電車を2度も乗り換え、待ち合わせ場所に10分前には到着するあたり、おれはまだ何かを期待しているらしかった。

イモネはきっちり定刻に現れた。
赤いミニ丈のワンピースから日焼けした脚がまぶしい。昨日チェンマイから戻ったという。おれは今夜、自分がデリンジャーにならないことだけを祈った。

開口一番、
「今夜は鍋が食べたいの」
季節的に考えても、それは適切な選択とは言い難かった。
何より、すでにイタリアンのコースを予約している。バース
[次のページ]
戻る   Point(3)