モグラ/もり
誰かが殺されたらしい。
せいぜいぼんやりとした現実がおれの背後に忍び寄ってくる。
あまり汗をかかなくなったこの頃、いつも息が熟柿臭い。
それでも、電車を2度も乗り換え、待ち合わせ場所に10分前には到着するあたり、おれはまだ何かを期待しているらしかった。
イモネはきっちり定刻に現れた。
赤いミニ丈のワンピースから日焼けした脚がまぶしい。昨日チェンマイから戻ったという。おれは今夜、自分がデリンジャーにならないことだけを祈った。
開口一番、
「今夜は鍋が食べたいの」
季節的に考えても、それは適切な選択とは言い難かった。
何より、すでにイタリアンのコースを予約している。バース
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