遠い日の物語/薫子
 
私に手渡しながら「T交響楽団でバイオリンひいてます」と。


名刺を出されたので、私も当時の職場の名刺を出すと、出した私が恥ずかしいようなピンクの名刺。「まるで飲み屋のホステスかなんかの名刺みたいだ。」と思いながら手渡すと、彼は私の名前を何度も口に出して読み、「素敵な名前ですね」と。


それは、本当に偶然の出逢いで私はその人と1年ほどお付き合いした。とても穏やかで楽しく優しい人だったのに、何故かどうして別れたのかよく覚えていない。何となく彼が東欧に数年留学する話が出て結婚したいと言われ、まだその時はそんな気持ちもなかった私は結婚はちょっと‥と言ったところまでで何故か記憶は切れてし
[次のページ]
戻る   Point(1)