愛は実体/ただのみきや
 
月は満面の白い笑み ピリッとして
私の耳 桜色でしょう
このままいつまでも夜道を辿って行きたい
ふたりの息が白く 交じり合う
それだって 初めてだから
私は精一杯 お人形のようにいい顔して 
心は薄皮一枚隠れて震えていた

ロマンスに実体はない
でも ふたりは実体

甘いものと酸っぱいもので胸をいっぱいにして
一度に泡立てたら 熱くふわりと洋酒の匂い

足を止め
瞳と瞳でキスをした
あなたは背中に回り 肩を抱き
片方の手を伸ばして私の腕を優しく掴み
私の手を夜空に向けてそっと持ち上げた
白金の輝きに触れさせようとでもするように
そうして 耳もとで囁いた

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