鍵/マゼンタ
 
巨大な蝶の描かれたキャンバスの横にただひたすら立ち続けるというアルバイトをしていた。絵画に触ろうとする不届き物に注意を促すのが、僕の仕事の目的だったが、この美術館に限ってはそのような事は今のところ一度もない。
それにしても、だ。それにしてもこの絵は美しい。実に素晴らしい。

「徹君、そろそろ次の展示会の事を考えてるんだけどね」
「次の?」
「ああそうだ。北欧の新進気鋭のアーティストなんだけどなかなか面白いと思って」
「そうですか。でも僕、今の絵画展とてもいいと思います。なんていうか、独特で、妖しげで、何しろ観るものを惹きつけるというか」
「ああ、そう」
「そう少し続けてみるべきです
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