その血もまもなく滅びようとしている/天野茂典
野の台地を
勢いよくひゅるひゅる大空に舞い上がった
青空の下 凧と台地だけが黒かった
凧が安定して飛ぶようになると
父はぼくの手を取って凧糸を引かせてくれた
凧は次第に大空の染みのようになって行った
父の手の感触はもう忘れている
トランペッターでも会った父の手は
そう荒れるはずがない
荒涼としたこの相模野の台地で
父の吹くベッサメムーチョがBGMとして鳴っていた
父と子ははしゃぎまわった
お正月のようだった
父が逝って33回忌も過ぎた
一介の寿司屋の親父として58歳で他界した
父の年令を超えていまぼくはい
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