悲鳴/島中 充
 
から「ああーううー」と声を発した。信也の勤める縫製工場はたくさんの聾唖者を雇っていた。彼女もそのひとりだった。工場長は笑いながらこんなこと言ったことがあった。「彼女たちは何も聞こえないから一生懸命働く、気にする物音はないから、よく働くよ、ミシンにくっ付いているタニシだ」信也はその冗談に不快なものを感じた。自分のことを言われたような気がしたのだ。自分も何一つ文句も言わず、工場長の言うがままにミシンにくっ付いている縫製工だった。タニシのようにくっ付いている日々であった。
竜男のほうに向くと、言われる事がすでに分かっていたのか、何も言わない前から「もうたくさんだ。」と手を振りながら信也の説教を拒んだ。
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