托鉢の僧侶/梼瀬チカ
 

JR大阪駅前のこの街で一番せっかちだと言われていた信号

まばらな人をかき分け入って行く

托鉢の僧侶が般若心経を上げ時折鐘の音が響いている

信号が変わる迄の待ち時間

待ち人はいっせいに見つめている

陽炎の立ち上ってゆく車道の上の

十秒おきのデジタル表示を

はんにゃはらみたしんぎょう  振り返る者はなく

視線が加熱して

増えてゆく信号待ちの顔達は

ひたすら一点を見つめ

次第に浮き足立ち頭を空っぽにする

はんにゃはらみたしんぎょう  途切れることなく

二十秒前には身構えて

十秒前には誰かが必ず歩き出す

加熱して
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