公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
虫かごの戸を開いて振りながらばら撒いた。お前たちは自由だ、自由だと大声で叫びそうになり、若者はばら撒いた。「それ行け。それ行け」虫たちは月の光に黒光りしながら飛びたち、街灯のともる住宅街へアスファルトの上を素早く黒い群れに成って、ニンゲンの住む所へ走って行った。犬や猫の糞を食らい、ニンゲンの食べ残しを漁り、寝静まったニンゲンの枕もと、暗闇をゴキブリは駆け抜けるだろう。そう思うと若者はぞくぞくし、嬉しくてしかたなかった。
しかし、若者はやはりこんなことをして本当に良いのかと毎日心配もするのだった。警察に捕まるのではないかとひどく怖かった。警官に出会っただけで眠れない日が続いていた。そのことを社長に
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