公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
 
なまれ、我慢ならなかった。今こそ仕返しのできる強い人間に成るのだ。ゴキブリを撒くことで少しは世間のいじめた奴らに復讐できるのだ。たとえ仲間のゴキブリが殺虫剤で殺されても、ペチャリとスリッパで黄色い内臓を床になすり付けられても仕方がないと思った。これはいじめた奴等への仕返しなのだ。復讐なのだ。ゴキブリを撒く仕事はやりがいのある、意味のある仕事だと気を奮い立たせ、きつく胸の前でこぶしを握った。
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虫かごにごはんを入れておくとゴキブリが集まった。真っ黒になった虫かごを幾つも持って、毎夜、軽自動車で真夜中の二時に出かけた。車の窓を開き、片手でハンドルを握り、運転し、片手で虫か
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