公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
彼が近づくと嬉しそうにキャーと女たちは「ゴキブリがいる。ゴキブリがいる」と逃げた。逃げ惑う小さな心しか持たないゴキブリ男は踏みつぶされないように、睨みつけることで精一杯、彼女達に反抗し、自己を守ろうとした。だが睨みつけるとそれがまた「気持ちわる―い、ゴキブリが睨んでいる」と言われ、一層彼女たちを喜ばせた。本当は自分をいじめる奴らの靴を靴箱から盗み出し、ゴミ箱に捨ててやればいいのだとゴキブリ男は知っていた。知っているだけでそれが出来ない人間だからこそいじめられるのだ。せいぜいできることは親や何もしてくれない先生に告げ口する事ぐらいだった。若者は昔を思い出すだけで身震いするほど腹が立ち屈辱感にさいなま
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