公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
 
工具、お米もあった。社長の指示どおりご飯を炊き、幾つもの盆のうえに平たくのばしてゴキブリにあたえた。盆一面に白い米粒がみえなくなるほど、ゴキブリは真っ黒に群がった。下腹部が呼吸するようにゆっくり膨らんだりしぼんだりしていた。くるくると長い触覚を一斉に鞭のように振りまわしている。喜びに羽をパタパタさせながらむしゃぶりついて食らっていた。耳を澄ますとジィージィーと歯ぎしりするような音が聞こえた。食べ物に群がっているゴキブリの歓喜の声だと若者は思った。よく見ると羽根やふっくらとした腹部は艶やかにこげ茶色に輝いていた。人々を驚愕させ、正視できないほどのおぞましい美しさがあった。生きている物の持つ艶、神々し
[次のページ]
戻る   Point(3)