公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
 
だ、いるぞ、と若者は思った。階段の横にあるスイッチに手を伸ばすとその腕に舞い降りてくるものがあった。思わずそれを振り払い、スイッチを入れた。その時、真っ黒な天井が一斉に動いた。まるで蝙蝠の舞う洞窟のように、部屋中を黒いゴキブリが群れ飛んだ。羽音がパタパタと凄まじい。羽ばたきで部屋の空気がふるえた。湿度も室温もむっとするほどたかく 牛糞の匂いがした。床には排泄物が黒く湿って溜まっていた。きっと社長はすでにゴキブリを住宅地に、人の住む所にまき散らす仕事をしているに違いないと若者は思った
次の日から若者はその家に住みついた。そこにはすでに生活に必要なものはだいたい備えてあった。鍋釜から寝具、色々な工具
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