公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
うにかたまって飛び回っていた。
丁度、壇ノ浦にはその時、ひときわ明るく輝かくおおきなフェリーが夜の海を航行していた。その上空をゴキブリの群れは本州の大地に向かって真っすぐに羽搏いていった。若い男女の修学旅行生の甲高い笑い声があたり一面、船上からひびいている。
そして、船下、冷たい水の中でひとりの若者が嗚咽していた。
エピローグ
五日後、快晴の朝、海峡から見える四月の山並は桃色に満開であった。行きかう船が波を切り、白波の立つ青い海面に浮き沈みしているものがあった。茶色の布を扇型にひらいて、その真ん中に「虫」と言う白い文字が読めた。腐敗し、ふくらみかけたむくろが波間に漂っている
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