公務員に成れなかったコックローチ /島中 充
いる。魚たちが群がりその肉を啄んでいるのだろうか、キラリと鱗を光からせる黒い魚影がしきりに周囲に見えた。
次の日、地方紙が小さく報じた。バスを横転させた統合失調症の若者が病院を退院したのち、ゴキブリの格好をして海に遺体で発見された。
警官が若者の住んでいたという一軒家を、調書を作るために訪ねた。鍵は掛かっておらず、あたりに牛糞のにおいがした。家の奥の地下から強烈な鼻を突く死臭がした。階段の下にはパイプレンチ、殺虫剤用の大きな噴霧器と真っ黒なゴキブリに覆われた塊があった。コックローチ社の社長の遺体であった。社長はレンチで頭骨を砕かれていた。口や顔、むき出しの素肌や血糊に真っ黒にゴキブリが群がっていた。警官が耳をすますと、ジィージィーと歯ぎしりするような音が黒い塊から聞こえた。
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