記憶の怪/ただのみきや
た無邪気な嘘も
同じことを繰り返して話しているうちに
いつの間にかそれが記憶となることだってある
本人にとっては拠り所であり真実である記憶
だが記憶とは体験をもとに心が創り出したもの
過去の出来事を変えることはできないが
現在地から見える過去の印象が一変することは起きうる
自我が自己を喰らう日蝕に開いたブラックラックホールの重力は
時間という距離を隔てた記憶の光をも歪めてしまう
自分の生きてきた人生が空しく無価値に思えてくる
誰にも必要とされず愛されていなかったと思えてしかたがない
一本の桜の木を見上げてはその美しさに感嘆を漏らしながら
次の日には同じ桜の木の下を足
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