記憶の怪/ただのみきや
に誓った一途な思いも
春の霞のように
忘れたいことばかりが
忘れられずにいつまでも
不の記憶ばかりが
押入れの戸の隙間からこちらを伺っている
喜びも悲しみも溶けて往く
一本のワインの中へ 味わいとなる
ざらつく違和は違和のまま残留する
棘のように形を残して
そうそう溶けはしないのだ
となりの席の子の消しゴムを
間違って自分の筆箱へ入れてしまい
そのまま使い続けているうちに
自分のものだと疑わなくなる
幼いころは記憶を
なにかの拍子に取り違えてしまうことがある
兄弟から聞いた話だったり
自分のことが友達のことだったり
何気ない空想や思わずついた無
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