【驟雨】志なかばでお亡くなりになられた松山椋さんへ/そらの珊瑚
 

 彼は私の左胸のネームプレートを指差した。
「私の名前? せんの さりゅう」

 漢字で『千野砂粒』と書く私の名前を、初対面で正しく読まれたことはない。
 せんの、は、いいとして、下の名前は、たいていは、すなつぶ? と聞かれる。
 小学校の頃、正しい読み方を知ったあとも、あえて、すなつぶと私を呼ぶ、噛み終わったあと紙に包まれずに捨てられて靴裏にくっつくようなガムみたいな男子もいた。からかわれて、怒るというすべを持たない、いくじのない私は、そのたびになんでもない、ふりをして、やり過ごすしかなかった。
 私は自分がなんのとりえもない、ただのすなつぶになった気がして、ひどく嫌な気分だった。
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