【驟雨】志なかばでお亡くなりになられた松山椋さんへ/そらの珊瑚
 
子が、古びた文庫本を貸出カウンターに差し出した。
 セピア色に変色した図書カードの名前の欄に『松山椋』と書き込まれている。
 私は日時のゴムスタンプを、今日であることを確かめて、押す。
 2004.10.25と青いインクで刻印された。
「……なんて、読むの?」
 本のタイトルに『驟雨』とあったが、それは初めて見る言葉であり、思わず彼に聞いてしまった。
「たぶん、しゅうう、かな」
「へえ、なんかかっこいい」
「だよね」
 彼と話すようになったきっかけは、今でもはっきりと覚えている。驟雨の読み方は教えてもらったが、それがなんたるかはまだ知らなかった。
「……なんて、読むの?」
 
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