KANASHIKI ZAKKAN/岩下こずえ
、涙を流して懇願しながら、決してそれを止めないのだから。
景色が変わってゆく。持ち物が変わり、読む本が変わり、食べるものが変わり、心を寄せて尊敬していた人が変わり、書く言葉が変わってゆく。僕の周囲にいてくれた人々が変わってゆく。味方が敵の追手となる。好きだったものが嫌いになり、嫌いだったものを受け入れ始めている。・・・僕が、僕でなくなってゆく。
僕は、行く手に広がる荒野を見据える目であるよりかは、ほろ馬車の歪んだ車輪が残すわだちでありたいと思う。雨水に打たれたり、風に吹かれたほこりや土に埋められたり、雑草の根に崩されたり、人々に踏まれたりすることで、少しずつ消されてゆく痕跡であった
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