KANASHIKI ZAKKAN/岩下こずえ
 
りされてゆく子どものような心境だ。泣きべそをかきながら、惜しがりながら、引き離されてゆくだけしかできない感じだ。苦労して、なんとか築いた礎さえも、置いていかなければならない。それは、数え切れないほどの享楽をあきらめ、決して消え去らない後悔さえ背負いながら、なんとか築いた、本当に、僕の唯一の財産だったのだが。その代わりに僕に渡されるものは、何だというのか? ろくでもない荒野だけだ。またしてもゼロから始めなければならない、徒労感と無力さだけだ。そして、憎らしいほろ馬車の御者のほうを振り向けば、そこで手綱を握っているのは、なんとこの僕自身なのだ。これは狂気だ。自分自身に「歩みを止めろ!」と叫びながら、涙
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