S市/山人
あの街は、社会人としての出発点であり、もうひとつの巣だった気がする
まったく奇妙な人の集まりで、個性に満ち溢れ
その人たちが皆、一つの構内でパンや菓子を作っていた
それぞれの細かい動きや、話しぶり、今でも鮮明に覚えている
なつかしい街の様子はかなり変わっていて、よく立ち寄った喫茶店やデパートは無かった
よく飯を食いに行った食堂はかろうじて存在していた
しかし、もう営業はしていなく、人の気配すらもない
タバコ屋の大家さんはもうとっくにこの世にはいないだろう
かつて工場があった場所を探すがほとんど解らない
時代はまるでどこかに急ぐように走り続けているのだと思った
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