認識しないまま知り続ける/ホロウ・シカエルボク
すような轟音なんて一度も鳴らなかったのだ、雷、おれは雷が好きだ、それは世界を切り裂いてくれる気がする、雷、おれはそれが好きだ、それは脳味噌の不具合をいっぺんで吹き飛ばしてくれるような気がする、雷はこの世界で一番ハードな音を出すバスドラムだ、観念的なマグナムの弾丸だ、おれはそれを待っていた、小銭のために道化を演じながら
雷は鳴らなかった、おざなりな雨だけが降った、磨耗したおれはレインコートにくるまってただ雨に濡れながらうちに帰った、玄関は間抜けなおれの姿を見てすこし楽しそうに笑った、おれは何も言わず一度開けた鍵をまた下ろした、世界とおれとの接点がそこで閉じられた、玄関のドアをはさんで、世界はおれの
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