月の民/dopp
救いの手を差し伸べるのか? 仮に差し伸べられたとして、それを僕は受け入れられるのか? おそらく馬鹿にされていると感じるだけだ。あんな、あんな街に生があったような奴には絶対に理解できないんだ、とアインは思いました。あの街に理解される、というのは、アインにとって、自我そのものを侵される事でした。今更になって、街の奴ら如きに善人面をさせてやるものか。奴らはもっとも共感能力が低く、人の心を解することができない、無知蒙昧の一般大衆に過ぎないのだ。読むのはいつも僕なのだ。僕が読まれる事はあり得ない。そうだ、とアインは思いました。読ませてなるものか。教導者は僕、保護者は僕だ。ライ麦畑の守り手は、常に一人なのだ。
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