月の民/dopp
 
だ。同時にアインは、守るべきライ麦畑の世界こそが敵だ、と思いました。奴らを永遠に、畑の内側に閉じ込めてやる。
アインはもう、自分が何故月の民になったのかを、忘れたのです。
アインの目には揺れる炎が映っていました。炎は形を変え、とぐろを巻き、燃え盛る蛇がアインの目前数十センチの所に浮かび上がりました。蛇は言いました。「お前の望みはなんだ」アインは答えました。「全ての人を守ることだ」蛇は消えました。
地平線の彼方から太陽が昇り始めていました。月を追おう、とアインは思いました。一人でも多く、月の民を増やしてやろうと決意していました。街の姿を、あるべき姿を、人の心を理解できない奴らの住まう所という姿を、より強固にしてやるんだ。月の民は、街の外に行くんだ。街に一人も、月の民を残してやるものか。僕たちは全員、月へと帰る民だ。アインの目に、真っ白に輝く、空飛ぶ帆船のイメージが浮かびました。帰ろう、と強く思いました。既に辺りは朝焼けて、強い光がオレンジ色をして、月の民が野営する荒野を染め上げていました。アインは夜の中にいました。アインはセンセイになりました。
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