左右非対称/こうだたけみ
 

 男は自動車でやってきた。そして自動車で去っていった。三十分ほど留まったはずだが、その間、男は一度も外へは出なかった。あたふたする姉さんは、上から見ていると操り人形みたいで、カチャカチャ乾いた音をたてて踊らされているみたいだった。自動車が走り去り、姉さんはあからさまに落胆した。きっと誰かが糸を切ったのだ。潰れる、潰れる、とあたしの口の中で舌が跳ねた。
 背後で、あたしの右手が踊り上がる。天井から吊るした蛍光灯が割れ、破片は右手に突き刺さる。けれどあたしは痛みを感じない。ひょっとすると右手は、本当に最初からあたしとは別の生き物だったのかもしれない。あたしは、何処から何処までがあたしであるのか、
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