夕暮れる夜/竹森
だ仄かに残っている筈の、)ナイフを浸してもみました。菊みたいに卵黄が花咲き、でもそれは一瞬の事で。ふと、何かしらの歪みを感じ、それを正そうとした私が無意識の内に、「いらっしゃいませ」と心の中で呟けば、「何言ってんの?」と、あの人、いつの間にか起きていて。その声の響かせ方が飽きもせず、私の肌が檸檬みたいに香ると教えてくれたのはあの人だったって私に思い出させるのでした。
(一人の人間が逃す夜の数はまばたきの数よりも多いのだとして。コンビニ店員のレジ打ちに感激して成仏してしまう霊が居るのだとして。一体の巨人の腐乱死体で駄目になってしまった森が在るのだとして。啄木鳥の嘴で傾いたその森の地軸が
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