夕暮れる夜/竹森
 
道水



 そういえばあれはいつの事だったか、もしかすると夢の中の出来事だったか。純潔を夢見る女が居てさ。それが当然であるかの様にミネラルウォーターしか口に含まない、そんな女だった。大量のティッシュペーパーを敷き詰めた寝床は、桶に溜められたどんな水塊よりも海と呼べるものだった。

 彼女の長く、滝の様に真っ直ぐ流れ落ちる黒髪は、月光を浴びると白く染まるという特質を持っていた。彼女の髪の色が旋毛の方から、白から黒に戻っていく時、水しぶきみたいに彼女の毛先から小さな真珠がぽつぽつと幾つも床に零れ落ち、何度か小さく跳ねながら転がっていった。どういう訳かそれらはいつも俺を目指すから、嬉しくて
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