夕暮れる夜/竹森
 
、俺は女の髪を絡めた指を後ろに引っ張り、痛がる女の耳元に口を寄せ、ありったけの憎悪を込めた別れの言葉を口にした。その瞬間、宝石が砕ける様にパッと煌めきを増した女の瞳は美しかった。

 別れ際、女は俺の事を憎んでいないよと微笑んでいた。「天使がビルに衝き抜かれてる・・・」と、積乱雲に届かないある高層ビルを見つめて、降雨の前兆である湿った風に髪をなびかせながら、一言呟き去っていった。

 その光景が、箪笥の奥にしまってある、いつかの俺が描いた絵のものである事を思い出したのは、だいぶ後になってからだった。



(俺たちの初恋は
(まるで夜な夜な蛇口から
(飲み干す事の出来ない水道水
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