もしも世界にラジオだけだったら/まきしむ
 
ばら撒かれることはない
みずから飛び降りることもない
盗みも強姦もない
夢も希望も
長いトンネルのような昼休みも
取り返しのつかないあやまちも
季節の変わる懐かしい匂いや
教室に忘れられた合唱曲も
誰にも届かなかったラブレターも

聴衆の前で破裂するくす玉
新宿の水色の風に乗って人々の頭に降り注ぐ色テープ
聴衆の色とりどりの服と混ざり合ってチカチカする
ひとかたまりが空に舞い上がり屋上の小さな庭園のにせものの樹にひっかかる
「あれダサいね」
足にからまって転ぶ人がいくらかいる
だだをこねグズる4歳児の肩にのった
花屋の父の日のポスターに貼りつく
見向きもされない
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