三つの部屋/竹森
 
え、また、それだけしか持っていないという、からっぽな自分自身におびえる。「おはよう」や「おやすみ」ではなく、彼に発せられた訳でもないのに彼の鼓膜をノックする、遠い車の走行音を掻き消そうとイヤホンを捜すが、こんな時に限って見つからない。ならばせめて、車の姿を認めた上で、走行音に鼓膜をノックされようと、出会いというもののほんの端っこにでもいいからありつけたならと、部屋を出る。春だというのに、コートを脱ぎ棄てられないでいる、その身のまま。





(A)

雨の滴が窓に衝突すれば、その速度を落とす。窓の向こう側とこちら側では、時の流れる速度がずれている証拠さ。「シャワー、先に浴びてき
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