三つの部屋/竹森
てきたわよ」ドアの向こうから、バスタオルを肢体に巻いた女。その前髪から鼻先を掠めて、透明な液体が垂れ落ちる。「怪物の唾液だ!」「何言ってるの?」「ああ、臭い!唾液の臭いだ!性に対する期待が濃密に圧縮された臭いだ!穢わしい!それで上手く隠蔽できているつもりか!?」夕暮れる夜を迎える、その合図ならいくらでもある。「あなたって、本当に困った、でも可愛らしい駄々っ子さんね」女が俺の肩に手をかける。世界中の女の、上の口から、今夜、下の口が香る、番。「―――うぇ」(飢え?)上。天井に伸びていく二つの怪物の影。その片方が俺の影だなんて。ああ、渇きを癒すのは水ではなかったのか。突っ込めるものありったけ全て突っ込んで。「I was born.」「I was born.」と雨粒が砕けている。その音で雨粒に気づいては唱える、「I was born.」が追いつかない。積乱雲の上と下では、時の流れる速度が決定的にずれている。静寂の夜空。鋼鉄の星月。騒がしい雲の下を咎める様に、雲の上は、雪原にも似た険しい沈黙が支配している。
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