その夜の仕事/もり
だ?と俺が問うと、「暮らし以上のモノを求めてないからさ」とだけ言った。シビれた。
猫の皮を被った狼。虎。いや、悪魔。
どうせなら悪魔とのドライブでいい。そう思いながら、また目を閉じる。
雨上がりの街、ドブのような水溜まりをタイヤが容赦なく蹴散らす音がする。今回の雨は、この街の汚れをどれくらい拭い去っただろうか・・・。
故郷アストラハンの夢を見た。カスピ海。大聖堂。旧市街。手を振る母・・。
一瞬に永遠を感じるとはこのことか。
しかし現実は残酷だ。俺たちのちっぽけな夢など、かんたんに引き裂いてしまう。
擦り切れそうなブレーキ音で目覚めた。
喉が渇く。はやくウォッカを喰らいたかった。
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