イノセントのありかた/ホロウ・シカエルボク
 
それから元の方に向き直った


そこから眺める生きている通りは
井戸の底で太陽を待ち続ける物語を思い起こさせた
そこには必ず太陽があり
黒猫と二人だったというのに
それは井戸のようなお終いだった
「井戸のような」と言うほか無い場所だった
「井戸のようだ」と、おれは口に出してみた
ム、と黒猫は低く、短く唸った


ポケットの携帯が鳴り始めたが、猫は身動ぎもしなかった
そうしたことをすべて知っているように見えた、おれは電話に出た
「部屋の準備が出来ました」と、今夜世話になるホテルのフロントの男が告げた
帰らなくちゃ、とおれはまた猫に話しかけた
猫はすこし目を細めただけ
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