イノセントのありかた/ホロウ・シカエルボク
 
だけでこちらを見もしなかったが、おれが立ち上がったときに一度おれの爪先に鼻をつけた
お前はいつまでここに居るんだ、とおれは訊いてみた
さあ、というように猫は首をかしげた
「たぶん死ぬまでさ」
本当はそう言うつもりだったみたいに見えた


ホテルの部屋は快適だった
関係性の要らない気楽さがあった
おれはベッドに腰を下ろし
鏡の中の自分を見つめた
老け込んでいて、疲れ過ぎていた
それでも
おれは井戸の外に居て
どこかに移動し続けている
カーテンの隙間から見える空は
もうすぐ
暮れようとしている




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