地下鉄のなかで/吉岡ペペロ
た。ほっとしてぼくは自分のお腹に手を当てるようにして鞄に両手を添えた。
そしてぼくは横に座る老人に注意を払った。
掏摸にあいやすいのは「掏摸に注意」と書いた看板の周囲なのだ。この看板を見ると大抵のひとは盗られたくないものを手で確かめる。
老人はわざとぼくに重なってきたにちがいない。ぼくは老人の悪意を電気のようにビリビリと感じていた。
「おまえのやり口なんか手にとるようにわかっている」そんな目をして老人に流し目をした。
ぼくは老人がつまらないことをぼくにしないようになにか言ってやりたくなった。
ぼくはもう手だけではなくてひじで鞄をロックしていた。
「どちらまで行かれるんですか」
と、
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