地下鉄のなかで/吉岡ペペロ
まえでいわゆる悪さというものをしないそうだ。そんな心理学を利用したのがこのホログラムの乗客たちだった。妊婦や老人はホログラムに重なるようにして優先的にそこに座る。ひとが重なり終わるとホログラムは消える。
テクノロジーの世界はいつも、近未来のような過去への郷愁にぼくを誘った。この車両のなかの誰がひとで誰がホログラムなのだろうか。このような空想めいたことを考えなくてもよかった時代があったのだ。ホログラムは一定間隔で点滅するから、そんな空想めいた郷愁は一瞬で終わる。虫の匂いだけは去らなかった。
今じゃ席を譲るとか社会倫理つまりマナーだとか、そういうものまでテクノロジーがやってくれている。
さいきん
[次のページ]
戻る 編 削 Point(4)