黒円(小説)/
 
。そして御影石のような光沢はその震えが生み出す自らの光であるようであった。

「どうしたの。あなた。最近、疲れているの?」

 ある日男の妻が面倒臭そうに男に聞いた。子供が生まれてしまえば、妻の意識など全て子供へ集中してしまう。小学3年生に中学受験を控えた子供が二人。今後の学費のためにも男はただただ働かねばならない。しばしば、男は自分がいつしかグレゴール・ザムザのような存在と化してしまったらどうなるだろうかと夢想する。意外と家族には必要とされず、最後は家族にその干からびた虫の死骸を箒で掃かれるだけかもしれない、と。妻の質問に男がただ黙って頷くと、彼女は「気をつけて頂戴ね」とだけ言ってパート
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