黒円(小説)/
 
ートへと出かけていった。
 男は今日も取引先へ黙々と営業へ向かう。売り上げも近年は落ちる一方である。その代わりノルマだけは増えていく。特別な打開策も見つからぬまま、時には飛び込みで新規を開拓しようとする。最近はまだ6月と思えぬ程暑い。このままでは本格的な夏が到来する際、目も当てられないと男は思う。男が子供の頃はこのような異常な暑さはなかった。30℃越えしただけで「今日は暑いね」と家族で話し合ったものだ。子供の頃、男は広島の山奥で育った。木造の日本家屋の庭は裏山と地続きになっており、夏には山に入り多くの昆虫を採集した。実家は農家で牛を飼い、鶏を飼いしていた。そんな男が都会に憧れ、上京したのが大学の
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