黒円(小説)/幽
断歩道上で、男の行く方向を遮るかのように現れたかと思うと、瞬時に消えた。大きさは直径2mはあろうかという程のドーナツ型の円環で、真中は空洞になっている。次に現れた時に、その空洞を覗き込む機会を男は得られたが、中はただ白い空間が広がっているばかりで実際何もなかった。その時の現れ方はいつものように横断歩道の上という訳ではなかった。今度は会社の窓から見えるビルの上に、それはまた突如現れ、ゆっくりと男の居る窓の方へと移動してきたのだ。移動したことはこれが初めてであった。そのおかげで少し緻密に観察できたという訳だった。観察してみてわかったことはその黒い輪っかは非常に微細に震え続けているということであった。そ
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