ナボコフ『青白い炎』第一篇・試訳/春日線香
 
くの谷間にかかっていた雷雨の虹を
反射する――
そういったたいへん芸術的なものに囲まれて暮らしたのだ。

さらに、そこには音の壁がある。秋になり
無数のコオロギに築きあげられた夜の壁が。
立ち止まらずにはいられない! 丘の中腹で
わたしは足を止め、虫たちの熱狂にうっとりと耳を傾けた。
あれはサットン博士の家の灯り。あれは大熊座だ。
千年前、五分間は
四〇オンスの細かな砂に等しかった。
ああ、星々を見つめよ。果てしない昨日と
果てしない明日に目を向けよ。はるか頭上に
星々は巨大な翼のごとく迫り、やがておまえは死ぬのだ。
 
思うに、ありふれた俗物のほうがより幸福だろう。
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