ナボコフ『青白い炎』第一篇・試訳/春日線香
 
聞いたりするある言葉
たとえば「心臓病」はいつでも父への思いを胸に呼び覚ますし
「膵臓癌」は母への思いを鮮明にさせる。
 
黙示録を経験した人――つまりわたしは、冷たい巣を持っていた。
ここはわたしの寝室だったが、今は客室として取ってある。
カナダ人の女中に押し込まれたこの部屋で
階下のざわめきに耳を傾けながら、皆のためによくお祈りをした。
叔父さんや叔母さん、女中や、教皇に会ったことがあるという
女中の姪のアデール、本の中で出会った人々、そして神が
いつまでも変わらず、健やかでありますように。

わたしは親愛なる叔母のモードに育てられた。
風変わりな叔母は詩人であるとと
[次のページ]
戻る   Point(2)