ナボコフ『青白い炎』第一篇・試訳/春日線香
らが学校の正面玄関を見分けられた。
けれども今は、一本の木にすら遮られていないのに
どんなに目を凝らしても、屋根さえ見ることがかなわない。
おそらく空間にわずかな狂いが生じ
それによって引き起こされた歪みや偏りのせいで
ゴールズワースとワーズミス――隣家と学校――の間の四角い緑地に建つ
木造の家や貧弱な眺めに、取って代わられたのだろう。
わたしはヒッコリーの若木を持っていた。
深い翡翠色をした豊かな葉と暗がり、貧弱な
虫食いだらけの幹――そのすべてが好ましく感じられた。
夕日が黒い木膚を褐色に染め上げ、周囲には
ほどけた花輪さながらに、葉叢の影が落ちたものだった。
そ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)