ナボコフ『青白い炎』第一篇・試訳/春日線香
あらゆる色彩がわたしを愉しませた。灰色でさえも。
わたしの眼はまさしく写真機のようにはたらいたのだ。
心のおもむくままに眺めたり、あるいは、興奮を抑えつつ
無心に見つめるときにはいつでも
視界に入るものは何であれ――
室内の風景、ヒッコリーの葉、ほっそりと凍りついた
雫の短剣――
さまざまなものが、瞼の奥に写し取られた。
それらはそこに一、二時間もとどまったが
とどまりつづけているあいだ、わたしに必要なのは
葉を、室内の風景を、軒下の氷柱を、よみがえらせるために
ただ眼を閉じることだった。
それにしてもなぜだろう。湖畔道路を学校へと向かうときには
湖から、われらが
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