ロクデナシ/為平 澪
 
。笑う声、罵しる声、獣の声、車の音、歪んだ空間ここがどういう世界なのかわからなかった。絨毯を這う、体のちぎれた男、水道の蛇口から出る海月、こっちに向かってくる暴炎、見えない恐怖に怯え、自分の出す叫びはもはや人間の声ではなかった。エリートだった親父は会社をやめ、俺につきっきりになった。力強く俺を押さえつけ何時間も同じ体制で俺についていた。「大丈夫だ。お前は強い子だ。だから大丈夫だ。」俺にいっているのか、自分でいいきかせているのかわからなかった。

「それは薬がぬける少し前だった。俺はどうしょうもない恐怖心から逃げたくて親父の財布をくすねて薬の売人の所へ行こうとした。親父は止めに俺の背中から腹に
[次のページ]
戻る   Point(3)