蓑虫/島中 充
、蓑から出よう、散歩に行こう」と誘った。
山をきりくずして作られた住宅地をぬけるとすぐに斎場が在り,斎場から山頂に向かって、満開の桜の広い公園墓地があった。桜の木の下を、手をつないで、私たちは墓石に散っていく花びらを見ながら、ゆっくりゆっくり歩いた。あちこちの木陰に潜んで、暗がりから私たちをじっと見つめるものたちもいる。ここは捨て犬のメッカだった。不意に交尾する二匹の犬が木陰から私たちの眼前に現れた。犬たちは横目で私たちを睨んでいる。仲間の犬も取り囲むように現れて、私たちに吠え始めた。妻は私の腕にしがみつき、私はぎょっとして妻を守りながら、踝をかえし、一目散に石畳の坂道を下りて行った。妻の肩
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