蓑虫/島中 充
の肩を抱いて犬の鳴き声に怯えながら駆け足に下りて行った。
「あなたをこうしてずっと守ってきたんだ。」と私は強がった。
しかし、交尾する二匹の犬の有様が頭から離れなかった。犬の交わるペニスのなまなましい赤が、私の目に焼き付いていた。
「アナタァー」
階下からまたあの声がした。
私は階段の上から身を乗り出して覗き込んだ。妻は飼い犬を仰向けにし、腹を撫でていた。仰向けのまま飼い犬は嬉しそうに尻尾を振っていた。妻はふぐりを掴み、しきりに赤いペニスを出そうとしている。妻の目にもあの赤が焼き付いているのだと私は思った。仰向けの姿勢では、犬はペニスを出すことは出来ない。妻はそのことを知らないのだ。すがりつくような目で、大きな目で、
「どうしてなの、どうして出ないの。」
妻は私を見上げながら言った。答えないでいると、妻は急に目の色を変え、釣り上げた目で睨みつけた。
また始まる。始まってしまった。
「他所におんながいるんでしょ。白状なさい」
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