花 陸が海に消えるまで。/為平 澪
潮は満ちることを忘れている。
不浄な貝殻になっていく私の器に、
どうか先生の透きとおるまなざしを、注いでください。
桜の花びらの淡い動脈とか、スカートの裾をぬらした夕立のにおい、
茜空で燃えてゆく飛行機雲の行く末。
南中するアルデバランの赤い嫉妬、と、シリウスの雄弁な若さ。
そして、今日も夜が涙をこぼすこと。
先生、感情に卒業できない子は、おぼれるしかないのですか?
去り行く思い出だけが美化されて身動きができずにいます。
私が眺めるすべての景色が幻ではなかったと、
記録を執ることをやめられないのは、先生だけが私に教えた授業でした。
陸
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