あしたのりんご/たま
 
ない? なにかほしいものあるでしょう」
「んー、そうねぇ」
 母はテーブルの上をじっと見つめてしばらく思案していた。
「りんごはもう買ったしねぇ……」
「果物じゃなくて、ほかにあるでしょう? 今夜のおかずとか」
 食料はすべて私が用意したけれど、調理は安心して任すことができた。
「さ、行くわよ」
 毎日の通勤には欠かせない黄色いラパンの助手席に母を乗せて街中をドライブする。
「ねぇ、かあさん、きのうはなに食べたか覚えてる?」
「ばかだね、おまえ。きのうのことなんかわかんないわよ。あした食べたものなら覚えてるけどさ」
 五年前に父を亡くして、母の痴呆はそのころから始まったらしい。
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