あしたのりんご/たま
 
呆になりやすいってほんとうだろうか。灯りを点けて母の顔を覗くと、うれしそうに目を細めて言った。
「ねぇ、圭子、今日はいい香りがするでしょう?」
「え、なんの香り?」
「あした買ってきたりんご。甘いわよ、きっと」
「かあさん……そんなのどこで買ってきたの?」
「ほら、あそこ。林果物店……」
「……」
 林果物店は私が幼いころにすごした街にあって、果物の好きだった父のために母が通ったお店だった。いまはもうその街を訪ねても林果物店は見つからない。

 久しぶりに母と食べるお昼ごはんは、私の遅い朝食になった。雨はもう止んでいる。午後は晴れそうだった。
「ね、かあさん、お買い物に行かない
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