群像/飯沼ふるい
とき、彼はがっかりしなかっただろうか。
そんなこと考えていると、僕のいなかった時代があったのだと、初めてわかった。
心のすぅっと浮くような涼しい感じがした。のど仏が納められて、質素な木箱が閉じられた。誰かがここからいなくなった。
あとで父ちゃんにモノクロの話をしたら思い切り笑われ馬鹿にされた。
それからクレヨンも絵の具も真っ先にあおいろが無くなっていった。
空は青いし雨も青いし朝顔もそれを植えたプラの鉢も運動着も青かったからだ。
ひねくれてしまったのは父ちゃんのせいだと思う。
※
四号室、ヤニ臭いシングルルームに男を呼びこんで寝る。ふやけた視界が捉える、シーツや
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